長秒撮影のすすめ:初級編~芦ノ湖

長秒露光のすすめ1-Main

先日、キヤノンさんの会報誌「Canon Photo Circle 6月号」の見開きに私、マサ・オニカタの長秒露光撮影の写真と記事を掲載していただきました。

これを機に、今回は「長秒露光(長秒撮影)」の方法に関する記事を書いてみたいと思います。シリーズ記事を3つ書く予定ですが、今回はその第1弾で、初級者向けの内容となっています。

Canon Photo Circleに掲載された以下の写真を使いながら、長秒撮影の解説をしていきますね。

長秒撮影_芦ノ湖
 
ご存知の方も多いと思いますが、これは、神奈川県足柄下郡箱根町にある、箱根神社の鳥居と芦ノ湖です。
 

撮影の背景

 
前の晩は雪が風に舞い、芦ノ湖は大きく波打っていたのですが、朝になるととても穏やかで平和な表情を取り戻し、緩やかに湖面が揺れていました。吹雪の最中も、そして、前線が去った後の静かな朝も、鳥居と、背景の山々は微動だにせず、留まり続けていて、その光景に心動かされるものがありました。

こういう状況で、普通にシャッターを切ると、「記録写真」ぽく写ってしまい、なかなか、その場で得た感情を表現することができません。そこで、長秒撮影に切り替え、「静」と「動」の対比をよりわかりやすく描いてみることにしました。
 

撮影時の設定

 
今回の撮影は以下の設定で行いました。

撮影モード:マニュアル
絞り:F14
シャッター速度:20 秒
ISO感度:100

 

雲のない明るい朝の光景は、通常ですと、以下のような設定で撮影し、標準露出になるよう心がけます。

絞り:F11
シャッター速度:1/80秒
ISO感度:100

ただ、これだと湖面の表情がそのまま記録されてしまい、月並みな写真になってしまいます。そこで、10段減光のNDフィルター(ND1000フィルター)を使用し、大幅に減光してみましょう。

こちらは77mm径用のNDフィルターですが、ほかにも、色々なサイズがあります。

67mm用NDフィルター

72mm用NDフィルター

82mm用NDフィルター

10段減光のNDフィルターを使用することで、被写体を暗くできるので、その分、シャッター速度を長くすることが可能になるわけです。

鳥居と同じくらい、奥の山々の様子をはっきりと見せたかったため、絞り値はなるべく大きくし、パンフォーカスにしました。

 

撮影時のポイント

 
長秒撮影を行う際、とても重要なのが、絞り、シャッター速度、ISO感度の「正しい組み合わせを選ぶこと」です。

今回は、露出(写真の明るさ)を一定に保ちながら、シャッター速度を長くし、不要なディテールを掻き消すことで、鳥居や、山々の荘厳さを表現するのが目的でした。そこで上述のND1000フィルターを付け、まずは絞りF11、ISO感度100のまま、シャッター速度だけ変えて撮ってみます。

例えば、シャッター速度を10秒にし、一枚撮影。

同じ露出を維持しながら、正しいシャッター速度を決めるのには、以下のようなチャートを使うと便利なのですが、今回は「初級編」の記事ですので、長秒撮影初心者の方は、敢えて、これを用いずに、まずはざっくりとシャッター速度を決めてしまって構いません。

絞り-シャッター速度-ISO-基本関係_3分の1段
(このチャートのPDF版ダウンロードはこちらをクリックしてください。)
 
その後、ライブビューモニターで画像を確認し、自分が求めている湖面の表情(スムーズさ)になっているか、そして、正しい露出になっているかを、確認します。

その結果、湖面のディテールが少し残ってしまい、また、写真は少しだけ暗めに写ってしまったとしましょう。

そこで、今度はシャッター速度を20秒に変更してもう一枚撮影。
すると、湖面のディテールは掻き消され、ベストな状態になります。一方で、シャッター速度を倍にした分、今度は写真が若干明るすぎて写ってしまったりします。

カメラのISO感度の最小値が100の場合、それ以上低い値を選ぶことができないため、今度は、対策として、絞りを少し絞ってみます(=絞りの値を少し大きくします)。
F11だった絞りを、F16にしてもう一枚撮影。すると、今度は、ほんの少しだけ、暗すぎてしまうかもしれません。

湖面の表情を表現するにはシャッター速度20秒が適切であることが既に分かっていますので、今度はF値を1/3段だけ下げて、F14で撮影してみます。これで、湖面の表情も、そして、写真の明るさも、意図したとおりに記録できるようになりました。

長秒撮影は、こういうプロセスを経ることで、簡単に行えます。

フィルム時代は、写真を一枚撮る毎にコストがかかっていましたし、撮影した結果をすぐに確認することもできなかったため、長秒露光は、なかなかハードルの高いものでしたが、デジタル時代になって、初心者でも気軽にトライできるようになりました。

設定の値を少しずつ変えながら、正しい「絞り」、「シャッター速度」、「ISO感度」の組み合わせを探るだけでよいわけですね。

「マニュアル撮影は不安」という方は、以下のチャートを参考にしてみてください。

マニュアル撮影_絞り_SS_ISOの特徴

 
ご覧のとおり、「絞り」は絞る(絞り値を大きくする)ほど、被写界深度が深くなり、手前から奥までピントが合いやすくなりますが、その分、写真は暗く映ります。「シャッター速度」は速くすればするほど、動いている被写体を「止めて」撮ることができますが、その場合も写真は暗くなってしまいます。一方、「ISO感度」は値を大きくすればするほど、写真は明るくなるのですが、その反面、ノイズが増えて、ざらざらした画像になってしまいます。

どれにも「トレードオフ」があるので、その特徴を理解しながら、優先順位を決めるようにしてくださいね。

なお、NDフィルターをお持ちでない方でも、夜景であれば、長秒撮影にトライすることが可能です。夜は被写体が暗いので、絞りを開放、そして、高いISO感度にしないと、十分な明るさをキープできません。この特徴を利用し、敢えて、大きめの絞り値と、低めのISO感度にすることで、シャッター速度を長くすることができるわけですね。

なお、夜景の長秒撮影は、私の「みなとみらい夜景撮影講座」でもお教えしています。

みなとみらいの夜景
 
興味のある方は以下のページをご覧いただき、ご都合が合えば、受講してみてください。


 
「長秒撮影のすすめ~初級編」の記事はここまでです。

今後、中級編と上級編の記事もアップする予定ですのでその際はまたご一読くださいね。
 
マサ・オニカタ